杉浦日向子・著 定価447円+税 筑摩書房 (TEL:03-5687-2687) 《ハ・ジ・マ・リ 「……このきせるはちょいと面白いね、アノー上野の戦争の時分にゃ随分驚いたね、エエ!?ウン、雁鍋の二階から黒門へ向って大砲を放した時分には、のそのそしてられなかったァな、ウン、買いたくねぇきせるだな。」 ご存知志ん生の火焔太鼓のまくらです。天道干の道具屋をひやかす客の世間話の中に上野戦争がひょっこり出て来て、とても不思議なそして身近な親しみを感じました。 『合葬』は上野戦争前後の話です。描くにあたり、この志ん生のまくらを終始念頭に置くようにしました。四角な歴史ではなく身近な昔話が描ければと思いました。 この選択に悔はありませんが、好結果となったかどうかは心もとない限りです。 江戸の風俗万般が葬り去られる瞬間の情景が少しでも画面にあらわれていたら、どんなにか良いだろうと思います。 |
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「合葬」というタイトルがまずスゴイ。 幕末というドトーのわずか数年間の出来事は、今まで実に多くの人々によって実に多くのヒーローに託されて、何やらとてもカッコよさげに書かれてきた。 だが、杉浦日向子は、ごくフツーの人の目線で長い長い日曜日であった「江戸の全てが葬り去られる」瞬間の風景を切り取ってみせた。 上野戦争の名もない彰義隊の話である。 彰義隊は当時「情人にもつなら彰義隊」と言われたように、旗本の年若い次三男坊が多く白袴の凛々しい姿にファンも多い。 しかしこれは、そんな華々しいヒーローの活劇ではなく、ただ淡々と市井の日常をつづっているだけだ。 今でも上野あたりでの“先の戦争=上野戦争”(第二次世界大戦ではなく)という図式が、思わず納得させられてしまう。 因ちなみに会津では“先の戦争”というと会津落城を象徴とするこの戊辰戦争のことを言う。 江戸が単に歴史の教科書に書かれている暗記すべき符号ではなく、私たちが生きている今この時代の地続きであったと感じられる話なのである。 今回紹介した本は武術の実際とは離れているが、明治以降の急速な西欧化によって失われてしまった感のある武術を捉えかえす上で、一見に値するのではないかと思う。最後に作者の後書きを記して本稿を終える。 《日曜日の日本 杉浦日向子 江戸時代というと何か、SFの世界のように異次元じみて感じられます。 【注】この漫画は1982~83年に『ガロ』に掲載され、青林堂から発売されていたが、今は筑摩文庫の一冊として販売されている。本稿は青林堂版を基にしてる。 |
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『ワールド空手』2000年2月号 |