『レジェンド~オランダ格闘家列伝~』


フレッド・ロイヤース & クン・シャルンベルフ 著

定価1800円+税

気天舎(TEL:03-5976-0621)

オランダといえば一般的には風車、木靴、レンブラント、ゴッホ等々思い浮かんでくるが、私たちにとっては何と言ってもジョン・ブルミンから始まる極真空手に代表される「格闘王国」としての驚異的な強さを思わざるを得ない。

人口僅か1500万人にも満たないヨーロッパの小国であるオランダが何故あらゆる格闘技で活躍しているのか?

その強さの秘密を説き明かしているのが『レジェンド』である。本書では、オランダ格闘技の歴史を紹介するとともに10人の格闘家に直接インタビューを試みている。

登場人物を簡単に紹介しておこう。

(1)ジョン・ブルミン

1964年の東京オリンピックで柔道無差別級を制したアントン・ヘーシンクはあまりにも有名だが、その彼に優るとも劣らないといわれていたのが若き日のジョン・ブルミンだった。しかし、当時のオランダでは柔道の組織が統一されておらず、弱小団体に所属していたブルミンは国際大会への出場権を与えらなかったのである。

失意の彼を救ったのが「魔法の格闘技=極真空手」だった。講道館での柔道修行時代に極真空手と居合道をも習得して帰国したブルミンは、柔道に嫌気が差し、極真空手の普及に専念していった。

オランダの主だった格闘家の多くは、直接または間接的にブルミンの弟子である。例えば、クリス・ドールマン、ヤン・カレンバッハ、ヤン・プラス、ヴィム・ルーシュカ(ルスカ)、ルク・ホランダー……。

(2)ヤン・カレンバッハ

柔道に夢中だったカレンバッハが18歳の時、ジョン・ブルミンの「魔法の格闘技」に出会った。以来、極真空手に打ち込んでいった。

極真本部道場に修行に来たカレンバッハを次に待ち受けていたのが、太氣拳宗師・澤井健一先生との運命的な出会いだった。

欧州最強と謳われたカレンバッハは56歳になる今でも強靭な肉体を誇り、大学で教鞭をとりながら自らの修行に励んでいる。

(3)ヤン・プラス

オランダ極真空手の草創期、フォーケンベーハー通りの有名なジョン・ブルミンの道場でカレンバッハの後輩として頭角を現したのがヤン・プラスである。

彼はその後、黒崎健時師範の下でキックボクシングを習い、帰国後すぐにキックのトレーニングと指導を始めた。これが後に世界のキック界を震撼させたオランダ目白ジム誕生の源だった。ロブ・カーマン、フレッド・ロイヤースを筆頭に幾多の名選手を育てた名伯楽ヤン・プラスもまた極真から育ったひとりである。

(4)ミッシェル・ウェドゥル

第2回大会から三度全世界大会に連続出場を果たしたオランダの王者ミッシェル・ウェドゥル(ウェーデル)。

日本の極真空手ファンにとって最も印象深いのは、第4回大会でのブラジルのアデミール・ダ・コスタとの死闘であろう。

この時ウェドゥルは前の試合で左の上腕二頭筋断裂というアクシデントに見舞われるというハンデを負いながらの闘いだった。右手と足だけでブラジルの怪物に立ち向かっていったのである。

この試合は現在も空手ファンの間に語り続けられる名勝負だった。極真の大会史の中でも最も激しい闘いだった。

(5)ペーター・アーツ

K-1でのオランダ選手の活躍は群を抜いている。これまで優勝したのは、スイスのアンディ・フグ以外は全てオランダ選手である。

ペーター(ピーター)・アーツはこの大会で二連覇を果たしただけではなく、昨年も優勝し、三度K-1を制覇している強豪だ。

そんな彼も少年の頃は一般的なオランダの少年同様、サッカーを行なっていた。だが、スポーツ好きの彼は体操、卓球、テコンドー等にも挑戦していった。

15歳でタイ式ボクシングに出会い、キックの世界に没頭していった彼はデビュー以来8戦全勝(7KO)で9戦目であのアルネスト(アーネスト)・ホーストと対戦し、判定負けを喫した。

しかし、彼はその敗戦をバネに努力を重ね世界の桧舞台へと突き進んでいったのである。

(6)アルネスト・ホースト

ペーター・アーツの因縁の相手がホーストだ。アーツより5歳年上の彼はオランダのトップファイターで、最初のK-1グランプリでキック・ヘビー級史上最強と謳われたアメリカのモーリス・スミスをハイキック一発で沈めたテクニシャンである。

その緻密な闘いぶりから「ミスター・パーフェクト」と称賛されている。一昨年には、極真のフランシスコ・フィリォとも死闘を演じ、K-1を制覇している逸材だ。

(7)バス・ルットゥン

バス・ルットゥン(ルッテン)は悪夢のような少年時代を過ごしている。彼は重い喘息と全身の湿疹に苦しんでいた。そのうえ近視で厚いレンズの眼鏡をかけなければならなかった。当然イジメにあっていた彼だが、16歳になってからは皮膚病は消え、呼吸の問題も徐々に改善していった。

そして18歳からスポーツを始め、21歳で空手とテコンドーを覚えた。23歳で初めてタイ式ボクシングの試合に出て、破竹の勢いで勝ち進んでいった……。

紹介した7人の他に、(8)キックの帝王ロブ・カーマン、(9)ムエタイの牙城を崩したラモン・デッカー、(10)チャクリキ・ジム師範トム・ハーリンクの生の声を掲載している。

この10人の格闘家の生きざまとオランダ格闘技の歴史を見ることによって、読者にはオランダの強さの秘密と日本から学んだ武道精神の深さが視えてくるはずだ。

『ワールド空手』1999年12月号

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