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書評・晴練雨読―空手修行者のための読書指南―第7回―
書評・晴練雨読  文/山岡 武彦
『武道のススメ』
武道のススメ

盧山初雄・著
定価1,524円+税
気天舎(TEL:03-5976-0621)



 《強さと優しさを持って世の中を歩くこと、これが本来の意味での武道だと思う。
 武というのは、(ほこ)(武器)を持って歩むようすを表すと一般的には言われているが、私はこう解釈している。すなわち、「武道とは矛を止める道である」と。》
 本書「第8章―武道とは何か」の冒頭でこう語る盧山初雄師範。
 盧山師範は言うまでもなく、第5回全日本空手道選手権優勝、第1回全世界空手道選手権準優勝など輝かしい実績を誇り、現在極真会館最高顧問として国内並びに海外での指導に多忙な日々を送りながらも、自己の修行に励んでいる空手界の重鎮である。
 まず、盧山師範の武道への思いを、本書の目次で見てみよう。
 (1)武道のススメ―粗大ゴミに甘んじているオヤジへ/オヤジの身勝手が家庭内暴力を生む/武道のススメ
 (2)初心を忘れるな―強さの中に心の安らぎがある/小さい頃からの夢/自分の信念を貫け/常に一から出直せ/身体の中に財産を築け/武道の持つ神秘性/空手の極意とは何か/死ぬまで初心であれ
 (3)良師を選べ―日々の地道な稽古の中から新たな出会いが生まれる/失われた人間の能力を取り戻す/正しい術には正しい心が宿る/武道を学んで安らかな人生を送る
 (4)無我夢中で修練せよ―千日をもって初心とす/バカに成り切れ/無我夢中で稽古せよ/無心について/信念を持ってその道を邁進せよ
 (5)敗北から生まれる勝利―本当の稽古は挫折の後/強さのバロメーターは優しさの中にある/イジメる側に強い人間はいない/恥をかくのは当たり前
 (6)技は心の中から生まれる―威力はスピードにある/心の運動量が技を決める/心の中から技が生まれる/肉体的精神を磨け
 (7)武術修行と人生修行―天の試練に感謝して武術に励め/苦労が足りない全日本チャンピオン/武術修行と人生修行は車の両輪/武術一本にかける情熱を持て/試練に立ち向かえば結果はついてくる
 (8)武道とは何か―強さと優しさを持って社会を歩く/武道と格闘技/自分の道を全うせよ/武道は人間として生きる道
 (9)師の教え―空手革命(大山倍達総裁の教え)/武にかける情熱(澤井健一老師の教え)/武道の社会的使命(中村日出夫先生の教え)
 ◎さらに武道のススメ
 この目次を見ただけで空手修行者の心得や進むべき道が視えてくる。
 さらに盧山師範が自己の経験に基づいて懇切丁寧に解説を試みており、全武道家・ファン必見の書といえる。
 ひ弱だった少年・盧山初雄が極真空手に出会い、日々鍛練を重ねることによって成長し、さらに三人の師(大山倍達総裁、澤井健一老師、中村日出夫先生)の教えに導かれ、生涯を空手道にかけている、強い男の哲学と心情が如実に描かれている。
 孫子の兵法に「彼を知り己を知れば、百戦して(あやう)からず」とあるが、盧山師範はこの言葉より、「百戦百勝は、善の善なる者に(あら)ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なり」という言葉のほうが重要だと主張する。この意味は「百たび戦って百たび勝ったとしても最善の方法ではない。戦うことなく敵の兵を屈伏させるのが最善の方法である」ということである。
 武道の世界でも同様に「戦わずして勝つ」ことが最善であり、日々空手の術を学ぶことによって心身を鍛練し、自己を完成させることを目的としている。
 また健全な肉体を創れば、健全な精神が(はぐく)まれる。さらに自己に厳しい修練を課することによって、人を思いやる心が生まれる。厳しい稽古を耐え抜けば、強い精神ができる。その不屈の精神をもって社会に貢献するのが、武道の使命だ。
 盧山師範は、この立場から武道を学ぶ喜びと、武道を学ぶ人の在り方を考え、すべての人々に向けて「武道のススメ」を記している。
 武術の技は永い時間の中で、無数の先人たちの体験と修練などの積み重ねによって、また後進の手によって絶えず研究、改良され、延々と今日まで受け継がれてた。そうすることによって、人間の肉体と精神を極限まで鍛え、武道として昇華されてきたのである。その武を自分の身体の中に受け継いでいる師匠に学ぶことが重要である。しかし、そういう良師に出会うことはたやすいことではないし、見抜く眼も容易に身につくものではないだろう。
 盧山師範は、日々の地道な稽古の大切さを説き、良師との出会いをこう語っている。
 《こればかりは、運とか縁とかが大きな要因になる。ただ、その人が真剣に武道を捉え、真剣にやることによって、新しい縁が生まれる。常に初心を忘れず、努力精進することによって、新たな出会いが待っているはずだ。そう私は信じている》
 確かに運、縁が大きく左右するが、盧山師範の言うように真剣に事にあたれば、道は開けるはずだ。何の分野でもそうだが、本物はほんの一握りしかいない。だが、常にその道を求め、アンテナを張り巡らせ、頂上めざして歩き続ければ、必ず出会うはずだ。
 さらに「武道とは何か」を探求する上で、盧山師範の修行過程を描いた彼の自伝書『空手とは何か―我が生涯の空手道』(気天舎)も併読することをお薦めしたい。
 《最初は専門的にやる必要はない。健康のため、美容のため、あるいは子供の(しつけ)のためでもいい。まず武道を始めてほしい。道場に来て稽古を見るだけでも大きな刺激になると思う。さらに道場で汗を流し稽古をすることによって、健全な肉体をつくり、健全な精神を持って社会を、人生を歩んでいただきたい。そうすることによって、少しでもこの世の中がよりよい社会になることを私は願っている》
『ワールド空手』2000年5月号

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(1)生命知としての場の論理〜柳生新陰流に見る共創の理〜
(2)レジェンド〜オランダ格闘家列伝〜
(3)日本剣客伝・三〜柳生十兵衛・堀部安兵衛〜
(4)合葬(がっそう)
(5)高野佐三郎 剣道遺稿集
(6)板垣恵介の格闘士烈伝
(7)武道のススメ
(8)武と知の新しい地平―体系的武道学研究をめざして―
(9)新訂孫子
(10)嘉納治五郎〜私の生涯と柔道〜
(11)武田惣角と大東流合気柔術
(12)武士道教育総論

(6)板垣恵介の格闘士烈伝 このページの
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(8)武と知の新しい地平

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