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書評・晴練雨読―空手修行者のための読書指南―第1回―
書評・晴練雨読  文/山岡 武彦
『生命知としての場の論理〜柳生新陰流に見る共創の理〜』

生命知としての場の論理

清水博・著
定価738円+税
中央公論社 (TEL:03-3563-1431)



 何やら難しいタイトルだが、この本に出会ったのが極真会館本部道場のある東京・池袋の芳林堂書店・武道書コーナーである。何でこんな本が武道書の棚に入っているのか、しかもお堅い中公新書だ。だが、サブタイトルを見るとその意味が分かる。私はこの“柳生新陰流”という文字に惹かれて買ってしまったのだ。
 頭から読み始めたが、やっぱり難解だ。大まかに目次を列挙すると、
◎はじめに
I場所とは何か―生命的な知/関係的表現の場/自己言及とシナリオの創出/脱学習と創造/場所的創造/創造における「主語」と「述語」
II剣の理と場所の論理―リアルタイムの創出知/剣の理と場所の論理/即興劇モデルの追求
III柳生新陰流の術と理―流史/術と理
◎おわりに
 どうも学者が書いた本は読みづらい。しかし、我慢して読み終えると著者に共感することが多かった。
 そこで、ワールド空手の読者にお勧めする読み方は、まず[はじめに]を読んだら、最終章の[III柳生新陰流の術と理]を読み、次に[II剣の理と場所の論理]を読む、そして最後に[I場所とは何か]を読めば面白いし、理解しやすい。欲を言えば、その後、II、III章と読み直せばより理解を深めることになる。
 さて、本書で興味深いのは、柳生新陰流(やぎゅうしんかげりゅう)の不変の理念と技術の改変進歩である。
 柳生新陰流は上泉伊勢守秀綱(かみいずみいせのかみひでつな)(武蔵丸信綱(のぶつな))が室町時代の末期に新陰流として創始し、柳生石舟斎宗巌(せきしゅうさいむねとし)に受け継がれ、第三世の柳生兵庫助利巌(ひょうごのすけとしとし)によって技の上でも重要な変化がもたらされ、連也巌包(れんやとしかね)によって完成されたと言われている。
 《新陰流の特色は、戦国時代末期の諸流が一般的に本源としていた、戦場における甲冑武者剣術―介者(かいしゃ)剣術の刀法・理合を徹底的に革新して、人性に自然・自由・活発な剣術を(はじ)めたことである》
 と言う作者は、新陰流を通して剣の理と場所の論理を解説しながら本題の「生命知としての場の論理」を展開している。
 新陰流の技術で言うと、戦国時代の甲冑武者剣術、即ち甲冑によって守られ、甲冑によって身体の動きが厳しい物理的な拘束を受けている状態での介者剣法から、江戸の平和な時代に、このような拘束から離れて自由に身動きができる状態での剣法へと創造的に飛躍したと言える。
 空手界に置き換えれば、極真空手開祖=大山倍達師範が従来の型練習を中心にした当てない空手から直接打撃性の空手を主張して極真空手を創始し、全世界にKARATEを普及させ、技術的にも飛躍したことに匹敵すると言えなくもない。
 極真空手は60年代には逸早くムエタイの技術を取り入れ、また他武術・格闘技の技を改良・進化させ、最強空手を誇ってきた。現在では意拳等の技術を参考に新たな練習体系を開発し、常に新しい空手としての王道を歩んでいる。
 宮本武蔵と同時代を生きた柳生兵庫助(柳生新陰流)の剣の理は活人剣(かつにんけん)であるという。
 《相手を自由に働かせて、その働きにしたがって勝つ剣である。それは相手構わず一方的に斬る剣ではない。自分と相手の関係に目を付けて、その関係を截相(きりあい)として捉えることから始まる。斬るのではない、共に截り合うことによって勝つのである。
 また自分が截るのは相手ではない。自分の人中路(じんちゅうろ)(自分の中心線)を截り徹すのである。それがたとえば一刀両段(いっとうりょうだん)(自分と相手のの中心線を重ねて共に斬り徹す)であり、それはあくまでも一刀両断(相手を真っ二つにする)ではないのだ。その結果として相手が斬られているのである》
 作者はこの「截相」に刮目し、生命的な知を考察する上で、剣の理に場所の論理を求め、様々な考察をしている。
 《私が柳生新陰流に感銘を受けることの一つは、その原理が截相の場所を設計するという考え、すなわち「先々(せんせん)(せん)」と「活人剣」という考えが基本になっている点です。
 すなわち自分が設計した場所の中で、自分が書いたシナリオにしたがって、相手に自由に演技をしていただく、そしてそのシナリオにしたがって自然に勝ちを得る、これが柳生新陰流の活人剣です。
 それは相手の自由意思を前提にした即興劇であり、相手を圧倒して抑えつける一方的な技(殺人刀)ではありません》
 この「先々の先」「活人剣」という発想こそ闘いにおいて最も重要なことだと私は思っている。
 よく「先手必勝」といわれるが、これはある程度のレベルに達すると通用しなくなる。いかに相手に先に仕掛けさせるかが勝利の鍵である。
 《「敵を斬る」ための技ということになりますと、「いかに敵に技を出させずに我が技を出すか」という戦術、すなわち力とスピードで圧倒して敵をすくめて、敵の意志を阻むことが必要になります。すなわち、それは「反の理」に立っています。
 これに対して「截相」では、「彼が斬りそして我も斬るという截相の状態にいかにもっていくか」という戦術が必要になります。このためには敵の意志を阻んではなりません。逆にこれを助けて、敵にその意志を発揮させることが必要です。すなわちそれは「合の理」に立つことです。
 その理由は無限定な状態、すなわち敵がどのような変化をするかが予測できない無限定な状態のままでは、どのように技を使えば勝つことができるかがわからないからです》
 以上、簡単に本書の解説を試みたが、私の理解力の浅さゆえ読者に充分伝わるとは思えないが、とにかく一読をお勧めする。
 誌面の都合上一部しか掲載できなかったが、柳生新陰流には「十文字勝ち」や「合撃(がっし)」など興味深い技がまだまだ沢山あるし、稽古方法にしても根源的である。ご要望があれば再度紹介したい。
『ワールド空手』1999年11月号

バックナンバー

(1)生命知としての場の論理〜柳生新陰流に見る共創の理〜
(2)レジェンド〜オランダ格闘家列伝〜
(3)日本剣客伝・三〜柳生十兵衛・堀部安兵衛〜
(4)合葬(がっそう)
(5)高野佐三郎 剣道遺稿集
(6)板垣恵介の格闘士烈伝
(7)武道のススメ
(8)武と知の新しい地平―体系的武道学研究をめざして―
(9)新訂孫子
(10)嘉納治五郎〜私の生涯と柔道〜
(11)武田惣角と大東流合気柔術
(12)武士道教育総論

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